スケルトン作成

まずは、メインウィンドウを持ったアプリケーションのスケルトン（骨組み）を作成し、ビルド・実行してみる。

QtCreator 起動
ファイル＞ファイル/プロジェクトの新規作成メニュー実行
プロジェクト＞Qt C++ プロジェクト＞Qt GUI アプリケーション選択
プロジェクト名、パス設定
Qt バージョン選択
詳細＞「フォームを生成する(G) □」のチェックを外す
今回は Qt のシグナル・スロットの使用方法をC++コードレベルで理解するために、QtDesiner を使用しない
サマリ＞【完了】をクリック
→ Qt アプリケーションのスケルトンが作成される。
ビルド（Ctrl + B）して、実行（Ctrl + R）すると、下図の様な空ウィンドウが表示される。

Hello, World

メインウィンドウの paintEvent() をオーバライドし、中央に "hello, world" を表示してみる。

ヘッダファイルに paintEvent() 宣言を追加

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    MainWindow(QWidget *parent = 0);
    ~MainWindow();

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event);

};

実装（cpp）ファイルに paintEvent() を実装する。

#include <QtGui>
#include "mainwindow.h"

.....

void MainWindow::paintEvent(QPaintEvent *)
{
    QPainter painter(this);
    painter.setPen(Qt::blue);
    painter.setFont(QFont("Arial", 20));
    painter.drawText(rect(), Qt::AlignCenter, "Hello, world.");
}

プロジェクトをビルド・実行すると下図の様に "hello, world" が表示される。

表示メッセージを動的に変更可能に

表示メッセージ文字列をメンバ変数に変更
paintEvent では、メンバ変数を表示

setMessage(const QString &) スロットを定義し、外部から変更可能にする

class MainWindow : public QMainWindow
{
    Q_OBJECT

public:
    MainWindow(QWidget *parent = 0);
    ~MainWindow();

protected:
    void paintEvent(QPaintEvent *event);

public slots:
    void    setMessage(const QString &);

private:
    QString     m_message;
};

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
{
    m_message = "hello, world.";
}
void MainWindow::paintEvent(QPaintEvent *)
{
    QPainter painter(this);
    painter.setPen(Qt::blue);
    painter.setFont(QFont("Arial", 20));
    painter.drawText(rect(), Qt::AlignCenter, m_message);
}
void MainWindow::setMessage(const QString &mess)
{
    if( mess != m_message ) {
        m_message = mess;
        repaint();
    }
}

変更文字列を指定するために、ステータスバーに（QLineEdit）行エディタを配置し、 textChanged(const QString &) シグナルを MainWindow::setMessage(const QString &) にコネクトする。

class MainWindow : public QMainWindow
{
    .....
private:
    QString     m_message;
    class QLineEdit *m_lineEdit;
};

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
{
    m_message = "hello, world.";
    m_lineEdit = new QLineEdit;
    statusBar()->addWidget(m_lineEdit);
    connect(m_lineEdit, SIGNAL(textChanged(const QString &)),
            this, SLOT(setMessage(const QString &)));
}

実行結果を下図に示す。
※ 余談：QString の文字コード指定はデフォルタト（システム）のままでおｋ。
内部コードは常にUnicode の様だ。

シグナル発行

ステータスバーに "quit" と入力し Enter を押すと、プログラムを終了するようにしてみる。

onReturnPressed() スロット、quit() シグナルを宣言する。

class MainWindow : public QMainWindow
{
    .....
public slots:
    void    setMessage(const QString &);
    void    onReturnPressed();

signals:
    void    quit();
    .....
};

QLineEdit の enterPressed() シグナルを onReturnPressed() にコネクトし、
Enter が押された時点のメッセージが "quit" の場合は quit() シグナルを発行する。

MainWindow::MainWindow(QWidget *parent)
    : QMainWindow(parent)
{
	.....
	connect(m_lineEdit, SIGNAL(returnPressed()), this, SLOT(onReturnPressed()));
}
void MainWindow::onReturnPressed()
{
	if( m_message == "quit" )
		emit quit();
}

MainWindow の quit() シグナルを QApplication の quit() スロットにコネクトする。

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);
    MainWindow w;
    w.show();
    QObject::connect(&w, SIGNAL(quit()), &a, SLOT(quit()));
    return a.exec();
}

下図にシグナル・スロットの関係を図示する。

シグナル・スロットの特徴

本稿の例の様に、シグナル・スロット機構を使用して（QObject から派生したクラスの）オブジェクト間通信を行うことが出来る。
コネクト処理は実行時に動的に行われるので、依存性の無い設計（単体開発・単体テストが容易）が可能になる。
※ ただし、メソッド名をtypoした場合に、コンパイルエラーにならなくて困るという弊害がある。
一般的に、シグナルはオブジェクトの状態が変化したこと、ユーザがUI操作を行ったことを（コネクトされる誰かに）通知するもの、
スロットはオブジェクトに対する通知・内部状態を変える処理などを行うものである。
※ QLineEdit の様なUIオブジェクトはスロットがコールされ内部状態が変化した場合は、それを通知するシグナルを発行するのが一般的。
シグナル・スロット機構はUIオブジェクトに対して特に有用であるが、QObject から派生したクラスであれば何にでも使用できる。
マルチスレッドにも対応しているので、スレッド間通信にも使用できる。
ひとつのシグナルを複数のスロットにコネクトすることが可能。
複数のシグナルを同一のスロットにコネクトすることが可能。
シグナルを別のシグナルにコネクトすることも可能。
通常、シグナルを発行するとコネクトされているスロットメソッドの実行が終了するまで待た（ブロッキング）される。
connect の引数でスロットメソッドの実行終了を待たない（非ブロッキング）ようにすることも可能。
enum Qt::ConnectionType 参照
シグナル発行側オブジェクトとスロット側オブジェクトが別スレッドの場合、自動的に非ブロッキングとなる。
コールバック関数を使用するの比較し、シグナル・スロットは約10倍のコール処理時間がかかる。

演習問題

２つまたはそれ以上の数のUIオブジェクトが保持する値を同期するにはどうしたらよいか？
テキストエディタの場合、カーソル位置をステータスバーに表示するのが普通である。
この機能を実装するにはどのオブジェクトにどのようなシグナル・スロットがあればいいか答えなさい。
テキストエディタの場合、文字列が選択されると編集＞カットメニューが有効になる。
この機能を実装するにはどのオブジェクトにどのようなシグナル・スロットがあればいいか答えなさい。
QLineEdit, QLabel, QPushButton, QTextEdit などのクラスにはどのようなシグナル・スロットが定義・実装されているかを調べなさい。
Windows ではコントロールの状態が変化したとき、WM_NOTIFY メッセージを発行し、オブジェクト間通信を行うことができる。
その機構をシグナル・スロット機構と比較し、双方の長短所を述べなさい。